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先生同士の対話を、もっと深く。保育現場のコミュニケーションを変える「答えを出さない時間」

10月1日
読了時間: 6分

保育や教育の現場では、先生同士で話す機会がたくさんあります。

「この子への関わり、どうしたらいいかな?」 「こんなことがあったんだけど、どう思う?」 「私はこうした方がいいと思う」

子どもたちのことを考えているからこそ、意見を出し合い、よりよい方法を探そうとします。

でも、その時間がいつの間にか、 「じゃあ、どうする?」 「結局、どれが正解?」

と、“答えを出すための時間”ばかりになっていないでしょうか。

  もちろん、保育や教育の現場では、判断したり、問題を解決したりすることも必要です。

でも、ときにはすぐに答えを出さずに、

「あなたには、どう見えている?」

と聞いてみる。

そんな「対話」の時間が、先生同士の理解だけでなく、子どもを見る目を広げてくれることがあります。

 

 

「会議」と「対話」は、少し違う


会議では、

「意見を出す」「検討する」「合意する」「決定する」

といったことが求められます。


一方で、対話には必ずしも一つの答えや結論が必要なわけではありません。


「どうして、そう思ったんだろう?」

「この先生には、こんなふうに見えていたんだ」

「私は違う見方をしていたかもしれない」


相手の話を聞きながら、自分とは違う考え方や見え方に出会っていく。

それも、対話の大切な時間です。

「どうしたらいい?」の前に、「どう見えている?」


たとえば、同じ子どもを見ていても、先生によって見え方が違うことがあります。


ある先生には、

「今日はすごく頑張っていた」と見えていても、


別の先生には、

「少し無理をしているように見えた」

と感じられているかもしれません。


どちらが正解、どちらが間違い、ということではありません。

同じものを見ていても、人によって見えているものは違う。

だからこそ、

「あなたには、どう見えている?」

と聞いてみることで、一人では気づかなかった子どもの姿が見えてくることがあります。

ハワイ式哲学的対話「p4c Hawaiʻi」とは?

こうした「一緒に考える対話」を大切にしている実践の一つに、p4c Hawaiʻi(philosophy for children Hawaiʻi)があります。

P4C(Philosophy for Children/子どものための哲学)は、子どもたち自身が問いを持ち、対話を通して考えを深めていく教育実践です。


そのP4Cをもとに、ハワイで独自に発展してきたのがp4c Hawaiʻiです。p4c Hawaiʻiでは、「コミュニティ」「探究」「哲学」「振り返り」を柱としながら、哲学的な探究ができるコミュニティづくりが行われています。

ここでとても大切にされている考え方の一つが「Intellectual Safety(知的な安心・安全)」です。

何かを言ったときに、笑われたり、否定されたり、価値を下げられたりしない。

お互いを尊重することを前提に、「こんなことを言っても大丈夫」と思える場をつくることが、対話の土台になります。


そして、その安心して話せる場をつくるために使われているツールの一つが、「コミュニティ・ボール」です。


対話を助ける「コミュニティ・ボール」


コミュニティ・ボールは、色とりどりの毛糸を巻いて作るボールです。

p4c Hawaiʻiでは、基本的に、

「ボールを持っている人が話す」

「ボールを持っている人が次に話す人を選ぶ」

「話したくないときはパスしてもいい」

というルールで使われています。

とてもシンプルですが、ボールが一つあるだけで、

「今はこの人が話す時間」 「私はこの人の話を聞く時間」

ということが目に見えるようになります。

誰かの言葉にすぐ自分の意見を重ねるのではなく、まずは聞いてみる。

そして、自分が話すときには、自分の言葉で伝えてみる。

コミュニティ・ボールは、そんな対話を助けてくれる道具です。

実は「ボールを作る時間」から対話は始まっている


コミュニティ・ボールのおもしろいところは、完成したボールを使うことだけが目的ではないところです。

東京大学UTCPによるハワイでのp4cの実践報告では、参加者が紙の芯にカラフルな毛糸を巻きながら、「理想の休日の過ごし方」などの問いについて順番に話し、コミュニティ・ボールを作っていく様子が紹介されています。


そこでは、ボールを作ること自体がコミュニティの形成を助けるものとして位置づけられています。UTCP


つまり、完成したボールだけではなく、

「みんなで一つのものを作りながら、お互いのことを知っていく」

その時間そのものが、対話の始まりなのです。

みんなで「コミュニティ・ボール」を作ってみよう

UNOKYO通信では、先生同士の対話や園内研修でも取り入れやすいよう、厚紙を使ったコミュニティ・ボールの作り方をご紹介しています。 

用意するものは、厚紙・毛糸・はさみの3つです。


① みんなで輪になって座る

まずは、お互いの顔が見えるように輪になって座ります。

「最近、保育をしていて嬉しかったことは?」「今、保育で大切にしたいと思っていることは?」「私たちが子どもたちに大切にしてほしいことは?」

など、最初は正解のない、話しやすい問いから始めてみましょう。


② 毛糸を巻きながら、自分のことを話す

最初の人が、厚紙に毛糸を横方向に巻いていきます。

毛糸を巻いている間に、先ほどの問いについて自分のことを話します。

話し終わったら毛糸を切り、厚紙と毛糸を次の人へ。

次の人も自分の好きな色の毛糸を選び、同じように巻きながら話していきます。


③ 全員の毛糸を一つのボールにする

全員が巻き終わったら、厚紙から毛糸を外します。

中央を別の毛糸でしっかりと結び、輪になった部分をはさみでカット。

形を整えれば、一人ひとりの毛糸が集まった**「コミュニティ・ボール」**の完成です。


④ 完成したボールを使って対話する

完成したら、今度はそのボールを使って話してみましょう。

ボールを持っている人が話し、それ以外の人は聞く。

話し終えたら、次に話す人へ渡します。


そして大切にしたいのが、

「話したくないときは、パスしてもいい」

ということ。

話すことを強制しないことも、安心して参加できる場をつくるための大切な要素です。

p4c Hawaiʻiでも「パスする権利」がコミュニティ・ボールのルールとして明示されています。

 

 

「答え」ではなく、「問い」を持ち帰る

対話をしていると、

「私、こんなふうに考えていたんだ」

と、自分自身の考えに気づくことがあります。


あるいは、

「そんな見方もあるんだ」

と、自分にはなかった視点に出会うこともあります。


対話は、相手を理解するだけではなく、自分自身を知る時間にもなります。


だからこそ、

「結局、どうすればいい?」

とすぐに答えを探すのではなく、


「なぜ私はそう思ったんだろう?」

「どうしてこの先生には、そう見えたんだろう?」

「ほかの見方はないかな?」

そんな「問い」を持ったまま、一緒に考えてみる。


答えが出ないこともあるかもしれません。

でも、その時間があるからこそ、次に子どもを見たとき、今までとは少し違うものが見えてくることがあります。

 

 

先生同士の対話が、子どもを見る目を増やしていく


一人の先生が、一人の子どものすべてを理解することはできません。

だからこそ、いろいろな先生が、それぞれの見方を持ち寄ることに意味があります。


一人では見つけられなかった姿。

自分とは違う受け止め方。

「そういう見方もあるんだ」という、小さな発見。


先生同士の対話は、単に職員間のコミュニケーションをよくするためだけのものではありません。


子どもを見る目を、みんなで増やしていく時間。


次の園内研修や先生同士のミーティングでは、すぐに答えを出す前に、

「あなたには、どう見えている?」

と聞いてみる。

 

そこから、いつもとは少し違う対話が始まるかもしれません。



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